<ザトウクジラについて>

ザトウクジラは、体長13mから15m・体重約30トンにもなる哺乳動物です。胸ビレが長く、体長の約3分の1の長さからなり、尾ビレの幅も体長の約3分の1ほどあります。また、頭部にあるこぶしほどのコブも独特です。

<沖縄近海で見られる鯨について>

クジラは全部で86種になり、そのうち「ひげ鯨」と「歯鯨」に分けられます。ザトウクジラはひげ鯨の仲間です。

ひげ鯨と呼ばれている仲間は13種あり、沖縄近海で過去に目撃例があるのは、そのうち7種で、シロナガスクジラ、ナガスクジラ、イワシクジラ、ニタリクジラ、ミンククジラ、ザトウクジラ、セミクジラです。ここ数年の座間味近海で目撃された鯨類は、ザトウクジラ、ミンククジラ、歯鯨の仲間であるマッコウクジラ、シワハイルカ、ハンドウイルカ、オキゴンドウ、アカボウクジラ科のクジラ、ゴンドウ系のイルカです。

 

<ザトウクジラが見られる時期について>

毎年12月から4月頃までの間、ザトウクジラが座間味近海に帰ってきます。過去8年間での初目撃は11月26日から1月10日の間、最終目撃が4月8日から5月14日の間となっています。シーズンの中頃(1月中旬から3月中旬)が比較的ピークですが、「いつ頃が1番良い」というのは年によって差があります。

春になると餌を求めて、座間味を後にし北上を始めます。片道数千kmの旅をし、アラスカ、アリューシャン列島、ベーリング海まで泳いで行きます。体重の3%から5%の餌を食べるというので、約1トンから1.5トンの餌を食べるようです。主食はニシン、シシャモ、タラ、コウナゴなどです。

この時に、ザトウクジラ独特の「バブルネットフィーディング」という採餌方法をします。この方法は、小魚の群れを見つけると、その下に入り周囲を回りながら、鼻から気泡(バブル)を出し、円筒状のバブルのカーテンを作り、魚たちが逃げられないようにしてから、下から大きな口を広げ海水ごと口に含みます。

その後、上あごの500枚程生えているヒゲ板の隙間から、海水だけ外に出し、残った餌を飲み込みます。1頭の時もあれば、10数頭で共同して行う時もあります。

 

様々なアクション

ザトウクジラは大型のクジラの中で最もアクロバティックな行動をとるクジラです。
ホエールウォッチングでは、主に次のような行動を見られることがあります。

ブロウ

呼吸のために、水面に浮上した時に吐く息。

白い霧状で3mから5m程吹き上がります。このブロウを、浮上時に1回から7回程繰り返し、潜降していきます。次の浮上までは10分から20分位の間隔ですが、早いと2,3分、長いと30分以上とパターンはいろいろです。

微風の日で島がバックにあると、とてもきれいに見えます。
また太陽を背にブロウが上がるとブロウに虹が架かり、とても幸せな気分を味わえます。
座間味では「ブロウをかぶると幸せになれる」と言う定説(?)があります。

 

フルークアップダイブ・フルークダウンダイブ

水面に浮上してきてブロウを何度か繰り返した後に、ザトウクジラが背中をアーチ状に曲げるといよいよ海中に潜り始めます。
この時、背びれが見られますが、背びれもまた個体によって形が違い、特徴があります。

テール(尾びれ)を高々と水面上に上げて潜っていくことを「フルークアップダイブ」と言います。
ホエールウォッチングの楽しみの一つで、複数頭の鯨を見た時は、テールの腹側の模様の違いをチェックするのもおもしろいです。
テールの写真を撮りたい人は、水面上に背中が盛り上がってくる時にピントを合わせておくと、素敵な写真が出来上がります。

時にはテールを見せずに潜水する「フルークダウンダイブ」になることもあります。子クジラと一緒にいる母クジラに多く見られ、他には浅い潜水、移動中の時に見られますが、ウォッチャーとしては少し寂しい感じがします。

 

ペックスラップ

体長の約1/3程の長さのある胸ビレ(ペック)を水面上に出し、水面を叩きます。
体を横向きにし、片方の胸ビレで叩いたり、仰向けになり両方の胸ビレで交互に水面を叩いたりします。胸ビレの腹側は白い部分が多いです。たまに胸ビレの背側が白い個体もいます。

 

テールスラップ

海面上に高く持ち上げたテールを振り下ろして海面を叩きます。
一度きりではなく、何度も繰り返す事が多く、腹を下側にしてする時も上側にしてする時もあります。
1頭の時もあれば、複数頭の時もあります。稀に1頭で50回程繰り返す時もあります。

 

ペダンクルスラップ

胴体の後部を水面上に高く突き出して、横向きに水面に叩きつけます。
威嚇のためといわれており、他の鯨に対して又は船に対して威嚇しているようです。
1頭の時もあれば、複数頭の時もあります。

 

ヘッドスラップ

体の上半身を水面上に跳び上がるように出し、そのまま前方に、あごから倒れこむように水面に叩きつけます。
なかなか迫力のある行動です。

 

ブリーチ

胴体の2/3、またはほぼ全身を、ジャンプするように水面上に跳び出してくる迫力の行動です。
体の上半分から、時には全身を水面上に出し、跳び上がり、体を反転させて水面に落ちたり、背面跳びのように背中から落ちたり、パターンはいろいろです。

船上はもう大騒ぎです。このシーンを見たいがために、何度も何度も足を運ぶウォッチャーも多いです。

 

スパイホップ

顔をニョキっと水面上に出し、辺りを見まわしているような行動です。
数あるパフォーマンスの中でも、かなり珍しい行動です。

 

<グループ構成>

冬の座間味にザトウクジラが来るのは、出産、子育て、交尾などの繁殖のためです。そのため、よく見れるグループ構成は、次のパターンが多いです。

1.母と子
母クジラと子クジラの2頭。子クジラは、1年程で乳離れするといわれています。

2.母と子+エスコート
母子クジラと、エスコートと呼ばれる雄クジラの3頭です。雄クジラは母子を守る傍ら、母クジラとの交尾のチャンスを狙っています。

3.ペア
雄クジラと雌クジラのペア。安定した動きをしている事が多いが、怪しげな行動をしている時もある。

4.シンガー単独
成熟した雄クジラは「ソング」と言われる唄を歌います。いくつかのフレーズで構成されており、数分から数十分続き、最後まで歌うとまた始めから同じように繰り返されます。シーズン中はほとんど同じソングで、次のシーズンになるとソングが変化しています。

5.単独
性別不明。潜水時間、移動方向が一定していない時が多い。若いクジラの場合、ウォッチングボートに興味を示し、船の周りで遊んだりすることもあります。

6.メイティングポッド
雌クジラを求めて複数の雄クジラが大バトルを繰り広げます。3頭から、多い時には10頭以上にもなる時があり、数日に及ぶ時もあります。アクションのほとんどをする事もあります。